http://www.rikkyo.ac.jp/events/2015/04/15899/

立教大学での異文化コミュニケーション学部主催の講演会「字幕翻訳と異文化コミュニケーション」に参加してきました。
アカデミックな視点からの字幕翻訳に関するセミナーというのは珍しくも聞こえ、個人的な興味もあって参加しました。立見が出るほどの参加者の多さにビックリしました。そして昨今の学生が躊躇なく写メを撮る姿にも…。

第1部:字幕翻訳研究の今
日本の大学で教鞭を取られる先生方による講演
● 「日本映画の英語字幕における標準化傾向」 篠原有子先生
日本映画に付けられる英語字幕が増えている、英語を仲介して重訳(つまり多言語展開)されるなど。
本日のセミナーで何度か出てきた「クールジャパン政策」。これにより外国語字幕製作などへの補助金が交付されているらしい。
立教生だったからが理由ではないだろうがアメリカで異例的なヒットとなった周防正行監督の「Shall weダンス?」に言及があり、監督が経験した外国語映画であることによる難しさが紹介されている本があるとのこと。
受容されやすい字幕翻訳になることがある。← 標準化
音訳、詳述、直接訳、注釈、一般化、置き換え、省略など、映画ごとに頻度をカウントして研究されておられる。
英→日に比較して、日→英では頻度が顕著に高いとのこと。
標準化の例:「お茶漬けでも食べる?」というセリフが、「Something to eat?」という字幕にされる。

⚫︎「不自由が強いる自由-中国インディペンデント・ドキュメンタリー映画の字幕翻訳を通して」 秋山珠子先生
1秒4字ルールに関する逸話をお聞きできるとは思っていなかった。
これを述べられると共に文字制限、翻訳作業における難点、そして翻訳者の事由と責任を紹介してくださった。
山形国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリを受賞した「鳳鳴(フォンミン)-中国の記憶」を紹介され、カメラワークなどよりも「映画を構成する上で最も弱い要素である言葉」が重視されているワン・ビン監督の作風をドラクロワ的と表現されていた。
そう、ドキュメンタリー映画というのは話が強いからこそ、画像や音声に多少の乱れというかがあっても気にならないという独特の性質があるのですよね。
それよりも印象に残ったのが「艶」という字。
あえてルビを振らず、曖昧な漢字の使用が好まれない字幕でありながら、自問しながらもこの字の利用を決意した経緯を話してくださった。

⚫︎ 「映画における多言語使用と通訳者」 武田珂代子先生
鬼が来た」という作品の話が中心。
中国の村人たちと、とらえられた2人の日本兵。
香川照之演じる日本兵は拘束されながらも、言葉でもって村人たちを挑発し、自らを殺させようと試みる。共に拘束されたもう1人の日本兵は「通訳」の役割を果たすのだが、まったく正確には訳をしない。
日本語字幕の「クリーンさ」が奇妙なくらいだが、日本人自らを侮蔑する日本語の語彙の少なさにも起因するのか、検閲を回避するための自己規制が働いているのか、「受容」への影響を考慮した結果なのかと言ったところ。
フィクション映画においても「多言語化」は広まってきている。
日本が舞台なのにほぼ全編英語のセリフの映画もある。
方言が方言らしくは訳されないこともある。
外国語がメインの言語とは区別されずに字幕が付けられていることもある(そういえばこないだ見た「私はロランス」もフランス語と英語は区別なく日本語字幕にされてたような…)。
これって字幕における標準化?最近では注釈を入れることも可能だとか…。

⚫︎ 第2部:招待講演 “Afterthoughts on For an Abusive Subtitling” Prof. Markus Nornes
先生ご自身の過去の発表をご再考されての発表。
過去にCorruptと評したところをSensible Translation、AbusiveとしたところをSensuous Translationとされた。
Sensible Translationの特徴はまあ、「制限に拘束されている」と言ったところか。
Sensuous Translationについては「阿賀の記憶」や「Tokyo Tribe」を挙げられた。
確かに「阿賀の記憶」は何を言っているのか聞き取れず、分かりやすい英語字幕がついているのは自分にとってもナレーションを理解する上で大きな助けとなる。
「Tokyo Tribe」は提示されたクリップを見るだけでも、韻やリズム、ラップの特色が活用されているのが楽しい。(この翻訳家さんは魅力的だ。)
質疑応答でも、翻訳者には大して力はないけれど、規則は破ることができるとも言われていた。
最近はDVDやスマホでは見たい字幕を選択できる、「羅生門」などでは新訳が選択できるという話もあった。
また、Sensuousな翻訳はしたくても実現できない人、環境があるとも。
最後の最後に I love movies. と言われていたのがとても印象に残った。